運命の善意…②

こんにちは♪ 鍼灸師 園梨(ゆかり)です。

鈴木 秀子さん著「運命の善意」の第2話です。

第1話はこちらから


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辛く苦しい過去に立ち戻り、そ
こから現在まで本当の自分探しの旅を続けているみゆきさんは
私を信頼して道連れとしてくださったのです。
長い時間をたどってみゆきさんの道程をまとめてみると次のようになります。

もう40年以上も前のこと、九州の生家の縁側でまだ5,6歳だったみゆきさんは
赤い花模様の着物を着て浦島太郎の本を読んでいました。

竜宮城の美しい絵に一心に見入っていた彼女に傍らにいた彼女のおばあさんが
おまえを竜宮城に送ってあげたいねぇとポツンと言いだしたのです。

じゃあ亀に乗って行くの?
みゆきさんはただ目を見開きおばあさんは更に話し続けました。

おまえはお父さんとお母さんが失敗してできた子。
誰も赤ん坊をほしくなかったんだけど
できたものはしょうがなくて生まれてきてしまったんだよ。

それがどういうことを意味するのかみゆきさんにはわかりませんでした。

ただ自分がこの世に望まれずにして生まれ、
そしてよそにもらわれていってほしいと皆が思っていると子供心に感じ取り、
重い悲しみが心に刻み込まれたのでした。

やがて彼女に妹ができました。
その頃はみゆきさんのご両親も夫婦として、親としての余裕が生まれていたのでしょう。
妹は可愛がられ愛されました。

しかしみゆきさんの心の中には、生まれた時からなんとなく両親に対して隔たりがあり、
やさしくてかわいがってくれる温かいおばあさんに対してまでも
あの日以来なつけなくなっていたのです。

家族の中にいて冷やりとしたものを感じれば感じるほど、
なんとかしてお父さんお母さんの心を自分に振り返りさせたい、
どうにかしてこの子はうちの子なんだと思ってもらいたい、
その一心で小学校から高校まで必死で頑張り通したのでした。

その結果彼女は大学も会社も超一流のところに入ることができました。
豊かな才能と美貌とに恵まれていた上、対人関係でも細かい心遣いをするため
どこでもスターのような存在でした。

しかし心の中では竜宮城へは送らないでほしい、受け入れてほしいと叫び続けていたのです。

やがて彼女は人も羨むような結婚しました。
しかしこの人こそ自分を無条件にこの世に迎え入れてくれると
大きな期待を寄せたその人はただのひとりの男性に過ぎませんでした。

相手に求めすぎる彼女を待っていたものは離婚でした。
現実は辛いのが当たり前という慣れ親しんだ習性に従って
彼女は表向きはにこやかに振る舞い仕事はがむしゃらにこなして信頼を得、
キャリアを積んでいきます。

がいつも彼女の心を貫いているのは、
自分は両親から拒絶されこの世に受け入れられない人間なんだという思いでした。
この思いがガンを招く結果となったのかもしれません。

みゆきさんの話に聞き入りながら私も涙を流し続けました。
自分は生の原点において拒絶されたのだという烙印を幼い時に心に押されたのです。

その傷を深く意識の中に持ち続けた人が
人生に対してはたして温かいまなざしを持てるでしょうか?
みゆきさんが今まで健全な社会生活を送ってこられたことさえ不思議と思えるほどです。

みゆきさんに40年を超える年月付きまとってきた苦しみは
たとえようもなく絶えず体の芯から突き上げる氷のような冷たさは
外部からのなまじの温かさでは決して溶かしきれないものなんだろうと私は感じたのでした。

私はみゆきさんとひとつの世界を生きている気がしていました。
ただ黙って傍に座っていました。

みゆきさんの感覚は研ぎ澄まされて非常に敏感になっていました。
以心伝心で私が深く理解したということを感じ取ってくれたのでしょう。
彼女は初めて私の手を硬く握ったのです。

彼女の頬にツッと涙が一筋つたい落ちました。そして後から後から溢れ出たのです。
歯をくいしばるようにして泣いていました。

彼女の手をとり眼もとへと持って行ってあげました。
彼女はとたんに嗚咽し始めました。
私は言葉もなくその背中をゆっくり摩りながら、
彼女がこんなにも泣けるようになってよかった。そう感じていたのでした。

毎日新聞におもしろい記事が載っていたと友人が教えてくれたのは、
それから間もない3月の初め頃でした。

友人の話によると記事の内容は次のようなものでした。

2月22日の未明バングラディッシュの沖合を走っていた韓国船の甲板から
ひとりの青年が大波にさらわれ海に投げ出されてしまったのです。

しかし未明とあって彼以外の船員たちはまだ眠っており、誰ひとり出来事に気づきませんでした。

船は遠ざかってしまいました。
青年はまだ夜が明けきらない真っ暗な太陽の真ん中にひとり置き去りにされて漂流し続けました。

ついに力尽きあわや溺れかけようとしたまさにその時、
すーっと体が水面から浮き上がったような気がしたのです。

気がついてみると青年は大きな亀の背中に乗っていました。
その亀は海面に背中を出し、青年を乗せたまま、一度も沈むことなく
それから6時間漂流し続けたのです。

一方韓国船では朝の点呼が行われ、
その時になって初めて船員のひとりが行方不明となったことに気が付きました。

慌ててもとの位置に引き返し捜索に当たりました。
日も高くなったころようやく亀の背に乗った青年が発見され、
大網によって亀もろとも無事引き上げられたのです。

船はそれから近くのベンガル湾に寄り、亀にたくさんの肉と酒とバナナを与え海に戻したのでした。

この不思議な実話に私は深く印象づけられました。

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次回に続きます。
お楽しみに(;_;)/~~~

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